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バックナンバー2004年8月第5週

『ホエール・トーク』
クリス・クラッチャー:作 金原瑞人、西田昇:訳(青山出版社)

TVドラマでウォーターボーイズ2が放送されたり、アテネオリンピックでは「水泳ニッポン復活!」なんて騒がれたり。
今年の日本では水泳が結構注目を集めているようです。
そして今回紹介するこの本も水泳の本。

時は20世紀末。
場所はアメリカ、ワシントン。
有色スイマー、鈍才、秀才、マッチョマン、巨漢、カメレオンマン、サイコパス。
7人の高校生が水泳チームを作り、スポーツで優秀な成績を修めた者だけに贈られるスタジャンを目指して頑張る話…と書いてしまえば、よくある1つの物語。

でもこの『ホエール・トーク』は違います。
話の中心はもちろん水泳チームですが、その周囲を取り巻く環境が一番のポイント。

物語に出てくる人物は、敵も味方も心に傷をかかえた人ばかり。
家庭内暴力、幼児虐待、非行、人種差別、などなど。
アメリカ社会の抱えるさまざまな問題が、語り手である有色スイマー、T・J・ジョーンズの視線を通して描かれています。

21世紀を迎えて物質的には豊かになった現代人は、しかし精神的には重く病んでいる。
この物語の舞台はアメリカですが、昨今のニュースを見ていると、日本でも同じことが言えるのではないでしょうか。

世の中のことが少し分かりかけてきた、悩み多き多感な中高生世代に読んでもらいたい本。

物語の最後のあたりでは、T・J・ジョーンズは水泳ではなくソフトボールをやっているけれども、そこに出てくる
「幽霊みたいに存在感のないショート」
「世界一でかいファースト」
「暑さで気絶しそうになるまでスタジャンを脱がないライト」
が誰なのかは、最後までこの本を読んだ人ならすぐに分かるはずです。

(文:小人店員)

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