富津市磯根海岸のハマヒルガオ復元の記録

アクセスカウンター

 以下に、グリーンネットふっつが活動を始めた、平成17年(2005)当時の磯根海岸5月の写真を掲げます。

 

 茅、とくさ、コウボウムギなど背の高い草がはびこり、本来なら花盛りの時期であるハマヒルガオはまったく見あたりません。

 ハマヒルガオは全国の海岸に自生しています。ここ小久保海岸(磯根)も毎年5月になると可憐な花が絨毯を敷き詰めたように咲き誇り、白い砂丘をピンクに染め上げていました。

 ところが、バブル経済がはじけ出した平成5年頃、心ない業者が推定2万立米という想像を絶する大量の建設残土を小久保丘陵崖下に不法投棄したのです。

 この残土がハマヒルガオを全滅させる元凶だとは、始め、誰も気づきませんでした。なぜなら残土投棄後5年たっても、ハマヒルガオは相変わらず季節が来ればきれいに咲いていたし、そもそもハマヒルガオの咲く場所と、投棄残土とは3百メートルぐらい離れていたからです。

 しかし、平成15年頃になって、我々がハタと気がついてみると小久保海岸のハマヒルガオはずいぶん少なくなっていたのです。

              海岸清掃 

              勉強会

 そこで、専門家に聞いたり、九十九里浜のハマヒルガオ群生地を見学したり勉強会を開いたりして、知識を高め、その結論として我々が気づかされた磯根ハマヒルガオ絶滅へのシナリオは次のようなことだろうということでした。

 

 そもそもハマヒルガオは、乾燥地で低栄養地に育つ草です。海岸の砂地は風によって常に表層が入れ替わり従って種子の定着さえ困難な場所なのですが、この地こそ他の植物が育たないだけ、ハマヒルガオにとっては有利な場所だったのです。

 ところが建設残土が雨によって少しずつ下流に流れ、海岸砂地を覆い出しました。残土は粘土質で保水性が良く、窒素分の多い富栄養土(汚れた土)だったので、休耕田に生えるような葛、茅、トクサ、笹などが繁茂しだしました。これらは草丈が高いため、ハマヒルガオに日光が当たらなくなり、この点から、成長不振、絶滅へと進んでいったものと考えます。 
 もちろん、雨による残土の流出のあいだにも風による砂の堆積が進みますので地質の変化はゆっくりしたものになります。残土投棄後10年でハマヒルガオが絶滅したという歳月期間は、残土流出と砂の堆積のせめぎあいで、ごくごくわずかに残土側が勝っていることを表しています。

 それなら残土流出域を特定の場所に、完全でなくとも、ある程度集約出来れば、その他の場所は残土流出量が減り、砂の堆積の方が勝ちとなってハマヒルガオが復活するだろうということになります。

 グリーンネット富津の平成15年頃の活動は、茅や笹などの草刈りをし、そこに他地区から採取してきたハマヒルガオの種を播くという方法でしたが、なかなか目に見えた効果は出ませんでした。

 平成19年ころになって私たちはようやく先のハマヒルガオ絶滅のストーリーに気づき、残土流出の水道(みずみち)確保と固定を主要作業とするようになりました。
 具体的には、1m幅くらいで両側に土嚢を積んで波打ち際まで水道を作ったのです。これについては景観上、白い不粋な土嚢が並ぶ姿は一部の人から新たな公害ではないかとの批判を受けました。しかし、これは、太陽光で粉末化する期間の短い自然に優しい土嚢を選んでのグリーンネットふっつ自信の対策なのです。

 グリンネットふっつ考案の水道(みずみち)作戦により、数年でハマヒルガオが全盛時の80%程度まで復活し成功しました。その後、平成23年の東日本大震災時の津波遡上などで年によっての花付きの良い悪いはありますが基本的に農作物などの豊作不作の範囲内で推移し、ハマヒルガオの領域は確実に広がっています。また、小高い砂丘に他の植物がほとんどなくハマヒルガオだけが繁茂し、しかも砂丘と砂丘のあいだの水道は白い砂のままである、という磯根海岸独特のハマヒルガオの咲き方が実現しました。

 しかし課題がないわけではありません。ひとつは、丈を高くし、葉幅を広げた変異種のコウボウムギの繁茂、もう一つは、ハマボーフーの異常繁茂です。これらは表層砂層の下にある流出残土の影響と考えられます。現在、コウボウムギは人為的に根から引っこ抜いて除去していますが、絶滅危惧種で採取が禁じられているハマボーフーは放置せざるを得ません。
 今後、このハマヒルガオ、コウボウムギ、ハマボーフーの三者間でどのようなバランスが実現するのかまだまだ目が離せない状況です。さらに、漂着ゴミの多さも相変わらず深刻な問題が続いています。

 なお、ハマヒルガオ群落の領域拡大前線についてグリーンネットふっつは、若い小さなハマヒルガオ個体に対して、開花後の種子の成熟前早期摘果をして(子孫作りではなく)根による自身の成長 を促しています。これはハマヒルガオの領域拡大に効果があるものと考え、毎年花の終わる時期に会員総出で摘果を行っています。やがて、ハマヒルガオが波打ち際まで広がることでしょう。

    大汐や昼顔砂にしがみつき   一茶

      ※一茶、富津での句です。ちなみにハマヒルガオは一日花。